2012年11月28日

中津川のカワラノギク

連休、友人たちと伊豆へ行った帰り、神奈川県の中津川へ寄ってきました。
先日見た映画に登場した「カワラノギク」を見るためです。→映画『流─ながれ─』公式サイト
住所で言えば、神奈川県愛甲郡愛川町田代というところ。




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初めて見る相模川支流・中津川は、こんな川でした。支流とはいえ広い川です。

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ただ、水が少なく、ススキやセイタカアワダチソウなど丈高い草が生い茂っているせいもあって、なかなか水が見えません。

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左岸の運動公園野球場の上流側あたりで、堤防から河原に下りると、川と平行に、上流へ向かう道が造られています。
ちょっと河原とは思えない風景ですね。

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数分歩いたあたりに、ゴロ石の河原が現れ、カワラノギクが群生していました。

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映画の製作・撮影をされた能勢さんからいただいた情報では、11月上旬時点で見頃とのこと。
11月下旬になったらもう花はないかと思っていましたが、思いのほか残っていました。

カワラノギクは日本でも中津川、相模川、多摩川など数河川にだけ自生する植物だそうです。
河川改修やダムの影響などで生育条件が変わり、絶滅種になってしまいました。
*ほかに、徳島の那賀川に自生するナカガワノギクも、野生種としては同じように危機的な状況らしいです。

中津川では、それを憂えた吉江啓蔵さんという方が苦労して栽培・移植され、守られてきたということです。
今、活動は広がってNPO法人に引き継がれています。この日もメンバーらしい方々が熱心に手入れをされていました。

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カワラノギクは、一生に一度だけ、花がを咲かせるんだそうです。
でも、一年草ではありません。花が咲くまでには長い時間がかかります。
やせた土地で時間をかけて力をつけて…ワンチャンスに賭ける、って感じでしょうかね。
つまりこの花は、一世一代の晴れ姿なんですね。

たくさんの人々の貴い努力で河原に花が咲いているわけですが、これはいわば花壇。
人の手が入らなくなれば、たちまち消えてしまうでしょう。
小さな花や小さな虫が、ある川から消えてなくなるって、大したことないようでもあり、大変なことのようでもあり。
個人的には、大変なことだと思います。

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中津川のカワラノギクやそのほかの生き物については、映画の公式サイトに詳しいことが書かれています(もう一人、中津川の水生昆虫を調査されている齋藤知一さんについても)。

もちろん映画を見れば、中津川の状況がもっとよくわかります。
中津川だけでなく、日本の川全体にも共通する問題も見えてくると思います。機会あればぜひ。


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2012年11月20日

人を殺した話

自国が戦争しませんようにというのが、ささやかな望みです。せめて生きてる間だけでも。
けれども近頃、それが少し危うい感じがしています。
ええ、漠然とした話です。「ファンタージエンを信じるのが難しい」みたいな話です。

「戦争」というと、うちのご近所のおじいちゃんを思い出します。いまはもう他界されてます。
何年か前、ちょっとした用事でお宅へ伺ったときのこと。
庭先で腰掛けて打合せをして、帰り際に「見事な菊ですねー」とほめたら、そこから話が脱線。
打合せは5分で終わったのに、そのほかの話を2時間余り聞いてしまいました。

ご老人から意外な話を聞いた経験が、何度かあります。
私が名インタビュアーなのではなくて、要は「人は聞く人に向かって話す」ってだけだと思いますけど。
その日は休みで時間もあり、何よりおじいちゃんの話が面白…いや、面白いというよりは、これは二度と聞けない話だと思ったので、最後まで聞きました。

京都から取り寄せたという菊の自慢と、育て方の話が、10分か15分。
あとは、戦争の話でした。

おじいちゃんは、若くして中国へ出征した経験がありました。
うんと要約すると、いかにして敵の攻撃をかわし、現地の人を殺し、馬鹿な上官をごまかし、中国で迎えた終戦のどさくさを切り抜け、故国へ帰り着いたか、という、サバイバルの物語です。

戦争経験のある老人でも、自分が人を殺した話は語らないことが多いようですが、そのおじいちゃんは、誇るでもなく泣くでもなく、淡淡と話してくれました。
差別用語と残酷表現満載でしたが、まあ、語り口はおおむね淡淡とね。

いちばん強く印象に残っているのは、上官の命令で、命乞いする人を銃剣で刺し殺した話です。
これは漠然とした話ではありません。
命乞いの言葉や表情、しぐさ、手応えまで、うわあどうしようと思うほど、リアルに蘇るような話でした。
たぶん、語り手自身が、何十年後の今でもとりわけ鮮明に覚えてるから、聞く方にも伝わったんだと思います。

その話の中でおじいちゃんが怒ってたのは、上官のことでした。
いばるだけいばって横暴を通し、そのくせ自分の手を汚す勇気がなく、下に命令して人を殺させたと。
それでもその上官にもまた、上官がいる。その上官にもまた上官がいる。戦争で一番ひどい目をみるのは末端。殺す方も殺される方も。
そんな話でした。


機会があればご老人の話は聞いておこうと思います(もうすぐ自分も仲間入りじゃないのーという話はおいといて)。身内でも、他人でも。
死んでしまったらもう、話は聞けません。
何より、よくよく聞けば、つまらない話なんてまずありません。

人の何十年の人生が、つまらないなんてこと、ありますか。
戦争になれば、簡単に消されてしまう人生だとしてもです。

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2012年09月11日

折敷地「住吉さまの大杉」

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岐阜県の丹生川村は2005年に高山市に編入合併され、今は高山市丹生川町といいます。
車で通って眺めた印象では、きちんとした暮らしぶりのうかがえる、きれいな山里です。

旧丹生川村、荒城川上流に「折敷地(おしきじ)」という心引かれる名前の土地がありましたが、こちらは今年5月に完成した丹生川ダムに沈みました。

その折敷地に伝わるお話をまとめた冊子を、岐阜県高山土木事務所が作って無償配布していると聞いて、もらってきました。
薄い冊子ですが、きれいな絵が添えてあって、絵本のようです。

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丹生川ダムの竣工記念、だそうです。
発行部数は500部で、高山土木事務所(飛騨総合庁舎内)、丹生川ダム管理事務所でもらえます。

民話や言い伝えがいくつか掲載されていますが、そのうち「住吉さまの大杉」というお話のあらすじは、こんなのです。

昔、洪水で壊れた樋(水を通す木製の管)復旧のため、国の偉いさんから「住吉神社の大杉(ご神木)を使え」と命令があった。ところが、斧を入れても元通りになったり、やっと切り倒して運んだのに翌日には元の場所へ戻っていたりと、不思議なことが次々と起きた。紆余曲折の末、なんとか樋が完成。が、その晩から大雨で大洪水となり、樋も、村までも、流されてしまった。きっとご神木を切ったから神様が怒ったんだろう。流された樋は越中(現在の富山県)で龍神さまになったそうだ。


集落を湖底に沈めても、神様が怒りませんように。

posted by river at 21:54| Comment(0) | TrackBack(0) |