2013年11月21日

公害、高度成長、解脱

いつから書いてないんだろうこの日記。自分のことさえままならぬくせに、ひと様のお手伝いなんか始めたりして、日記どころか「川の地図」の更新も止まっております。
結局いろんなことが半端なまま、年が暮れていきます。こういうのを「例年どおり」とも言います。

再開のリハビリに、仕事や資料(Web上にあるPDFなど)以外で読んだ本でも書くかと思ったら・・・忘れてる。見事に忘れてるわ。恥ずかしい。何のために読んだんだろう。
うちのだんさんが忘れっぽい人で、よく「いいなー、毎日が新鮮でー」なんて言って笑うんですが、これじゃ笑えませんね。

そうです。たいていの場合、人のことは笑えない。

さて覚えてる分の書名だけでも。まだらに読んでまだ読了してないのも含む。 *リンク先はAmazonです。
地形工学入門』(今村遼平著/鹿島出版会)
終わらない河口堰問題』(伊東祐朔著/築地書館)
四大公害病』(政野淳子著/中公新書)
黄泉の犬』(藤原新也著/文藝春秋)
地図はどのようにして作られるのか』(山岡光治著/ベレ出版)

このうち『黄泉の犬』を読んだのは、今年、水俣条約の外交会議がほかならぬ水俣で行われた、というニュースに触れたのが直接のきっかけです。いろいろと調べているうちに、オウム真理教から公害や高度成長に思いをはせた人が自分のほかにもいたと、最近知ったわけです。

1995年5月、ノートにこんなことを書いてました。

オウムの教祖がつかまってから、いろんな人がいろんな分析や見解を言っている。社会構造がどうとか、集団の特性がどうとか。いつかきっと頭のいい人が言ってくれるだろうけれども、やはり歴史を考えないと。現象、現状の整理だけでは、決してわけはわかるまい。

どうしても高度成長が気になる。はやく伸びすぎた背丈のぶん、間のびしてしまった背骨のように、私たちには何かが足りない。あるいは、つくることふやすことに熱中する傍らで、こわれて消えたものが、あまりに小さく見積もられすぎている気がする。工業化の過程で自然が破壊された、などという、決まり文句のかげに、もっと大きな闇がある。

高度成長期、貿易立国という国是にのっとってなされたことのすべては、この国をまるごと工場にすることだった。そのために道ができ、水は「用水」となり、制御のための機構は都会に集中した。(中略)いわば工場の中で、駆除しきれない虫かなにかのように、生きてきた。オウムは、その根において、救いがたいほど日本的なやり口で、高度成長をなぞったのだ。

成長の夢を捨てきれない現代日本人が、洗脳された人々を笑えるか。



「この世に進歩などというものはない。あるのは変化だけ」って言ったのは、三島由紀夫? 子どもの頃どこかで読んで、ああそうだねと腑に落ちた覚えがあります。
人は「進歩」「成長」みたいな幻想と、その幻想の中にいる高揚感が好きみたいです。高度成長期には、そんな高揚感の中にいた人、いたいと願う人が、多かったことでしょう。ぼんやり思うに、それはオウム真理教の夢見た「解脱」によく似てたんじゃないでしょうか。

すべてを得て、欲望から解放されることと、すべてを捨てて、欲望から解放されることと。

最近では「戦後体制からの脱却」「美しい日本」なんて言葉を聞くたび、「解脱」に似てるなあと思います。


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2012年12月10日

『ビッグデータの衝撃』『農家が教えるわが家の農産加工』『日本の異言語教育』ほか

この3カ月ほどの間に、読んだことを覚えてる本。書名リンク先はAmazon。


ビッグデータの衝撃城田真琴著/東洋経済新報社
深夜オンデマンドで『PERSON of INTEREST』を観ては「ジェームズ・カヴィーゼルかっこえ〜」ってうっとりしてるけど、ドラマの根幹になっている「マシン」が今、けっこう現実味のあるものだと知ったのは、つい最近。
その業界(どんな業界かもよくわかってない)の知り合い経由で、「ビッグデータ」「テキストマイニング」「Hadoop」といった言葉を小耳に挟み、好奇心で読んでみた本です。そういう用途としてはいいんじゃないでしょうか。
しかし、ビッグデータ活用って要は「おばさんAはこの本をKindle版で買い、同じ頃ポロショコラ買ったよね! 2本も!」とか、データ化されちゃうってことでしょ。
ビジネス的に興味深いとしても、常に「される側」の身としては、「つまらん世の中になってきた」というのが率直な感想。

農家が教えるわが家の農産加工農山漁村文化協会編
「農家が教える」シリーズの一つ。
肉、魚、野菜、山菜・きのこ、果物、米、油など、「ほぉー」「へぇー」と、見てるだけで楽しい。ただ、写真が古い教科書みたいで、シズル感少ないです。
好物の「薯蕷饅頭」の作り方まで書いてあって感激。いつかは作ってみたいなあ。

時評 日本の異言語教育大谷泰照著/英宝社
日本の英語・異言語教育関連を中心に、この半世紀ぐらいの間に著者がいろいろな場所で書いてきた、時評や書評をまとめた本。教育や語学に縁がなくても、ものの見方、切り口が鮮やかで、おもしろく読めました。
本書にも登場しますが、わざわざ「米百俵」の故事を引いた所信表明演説をした総理大臣が、教育に関して何をしたか、何をしなかったか、きちんと検証されないままなのが不思議。
短い文章の集合で、ちょっとずつ読めていいですが、反面、同じ話題の繰り返しがあります。

戦争論多木浩二著/岩波書店
戦争を考えてどうにも落ち着かず、精神安定のため部分的に再読。
再読したのは、主に「サラエボ観光案内」のところ。戦争のまっただ中でも正気を保つ方法が書いてある…と勝手に思ってます。いくらかは落ち着きます。
タイトルに「論」とあるものの、「戦争トイウモノハ…デアル」的なことを期待するとはずれます。
私にとっては「今、世界(日本を含む)は戦時中」と自覚して読むのに良い本。いくらか落ち着くとか、そういう意味で。

森林飽和太田猛彦著/NHK出版
数十年前まではげ山だった里山が、現代では回復(というよりはむしろ深山化)して、日本の国土を変貌させているという事実を、「森林飽和」という言葉を核に解き明かす本。
著者は森林学、水文学、砂防などの専門家だけあって、豊富なデータ、的確な指摘。これからの森の使い方、残し方への提言もあり。
本書中にはありませんが、日本の森には、原発事故による放射性物質をどうするのかという、厳しい課題も生まれてしまいました。

水資源開発促進法 立法と公共事業政野淳子著/築地書館
水資源開発促進法は、要するにダム開発促進法のこと。
巨大公共工事が止まらないわけを知りたい人にはおすすめ。タイトル見るとひるむけど、堅い内容じゃありません。
日本の官僚機構って、すごくうまく出来上がっていて、かつ状況の変化にも臨機応変、生き延びる力が強い。なるほど「優秀」だってことが、よくわかります。カギカッコ付きの「優秀」ですけど。
欲を言えば、水資源開発促進法の全文をどこかへ載せといてほしかった。全文→ 水資源開発促進法(総務省e-Gov)

『水辺のゆくへ 21世紀の水辺環境の取り組みを考える』宮沢成緒著
松江市在住の宮沢さんが、宍道湖、神西湖、中海や、斐伊川などの水辺を実地に歩いて調査した結果を、豊富なカラー写真や図版とともにまとめたもの。
「もう10年もすれば、昔の水辺を知っている人がいなくなるのでは。子どもたちに昔の水環境を伝えたい」(11月5日付読売新聞より)という危機感から書かれたそうです。
市民が見た水辺環境の変化は切実な実感を伴い、貴重です。「昔は良かった」「今はこんなにひどい」という話だけではなくて、真摯に未来に向けた提言もされています。
この本、松江の今井書店に頼んで送ってもらいましたが、送料+代引手数料が1,050円で、ちょっと「うっ」てなりました(貧乏なんで)。
それでも松江まで買いに行くことを思えば安いものです…Amazonなんかに慣れるとよろしくないです…。

『吉野川渡し場周辺の石造物』吉野川渡し研究会
吉野川、旧吉野川、今切川の渡し場周辺の、常夜灯や石碑、お地蔵さんなどの石造物を丹念に調査したガイドブック。
カラー写真と解説、地図が添えられていて、これを持って「吉野川渡し場巡り散歩」したら楽しそうです(いつか吉野川へ行くときは持っていくんだ)。
水難供養や、渡し場の安全を願って建てられた石造物を通して、川とともに生きてきた、大勢の名もない人々の思いが伝わってきます。これも貴重な記録です。
徳島の書店・小山助学館に頼んで送ってもらいました。ゆうメール対応でした。

『折敷地 ふるさと民話』岐阜県高山土木事務所
前に「折敷地『住吉さまの大杉』」で書いたものです。本と言うより冊子かな。
「ダムに沈む村」なんて簡単に言うけど、土地と結びついた人の記憶が断ち切られるって、そう簡単な話じゃないと思います。

失われた景観松原隆一郎著/PHP研究所
一言で言うと、現代日本の景観がいかにひどいか、を嘆く本。
著者が嘆いてやまない「空を分断する電線」「ケバい看板」「画一的で安っぽいロードサイドショップ」って、「目の騒音」みたいなものだと思います。
確かに、現代日本人は、日常の景観に少々無頓着かもしれません。
災害復旧や防災工事に関して「世界遺産だから景観に配慮した」なんて記述を見たりすると、わびしいですね。何にも指定されてない場所では、景観なんかどんなに見苦しくてもいいみたい。

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